ハゲは治せる時代に?いろんなアプローチで効果アップ!
薄毛になるメカニズム
なぜ年をとると、男性は髪の毛が薄くなる傾向があるのでしょう。
また、個人差があるのはどうしてなんでしょう。
AGAに遺伝が関係していることは、ハッキリしており
家系に全くAGAがいない人は男性型脱毛症になることはありません。
逆に薄毛の人がいれば、AGAになる可能性が高い。
そして薄毛になる過程では、必ず男性ホルモンが何らかの形で働いており、
現在は男性ホルモンがどのようにかかわっているのか科学的に解明されています。
また、病名から男性限定のように思われるかもしれませんが女性でも男性ホ
ルモンは作られますから、女性のAGA患者もいます。
面白いことに、男性ホルモンは髪の毛を薄くする一方で、体毛や
ひげを濃くすることにもかかわっています。
なぜそういうことが起きるかというと、男性ホルモンは部位によって働き方が違うからなんです。
髪の毛は成長期、退行期、休止期という一定のサイクルを経て成長したり抜けたりしています。
この毛髪の周期と、成長を阻害する男性ホルモンの関与が明らかになってきました。
毛根の中には毛母と毛乳頭という細胞があり、この相互作用で毛が成長します。
そこに深くかかわるのが、男性ホルモンの一種であるテストステロンという物質です。
これが血液を巡って毛乳頭に入ると酵素の働きによって、ジヒドロテストステロン(DHT)という強い男性ホルモンに変化します。この物質が細胞内の受容体と結合するとひげには発育を促すシグナルを、髪の毛には発育を抑制するシグナルを出すのです。
遺伝の関与は、この受容体にかかわっていることまではわかっているのですが、その仕組みまではまだ完全に解明されていません。
ですから、一般に言われているように、帽子を被るとか、毛穴が詰まるとかは、薄毛とは関係がないんですよ。
薄毛の原因がここまで解明されてきたので、治療方法も格段に進歩していますから。とりわけ、男性ホルモンの働きに焦点を当てた治療は盛んに行われています。
飲む育毛剤
先ほど、男性ホルモンのテストステロンが酵素と結びついて薄毛とを引き起こすと話しましたが、この酵素の働きをブロックし、脱毛を抑制する薬として開発されたのが、内服薬の「フィナステリド」です。2005 年12 月から、AGA治療薬として「プロペシア」の商品名で販売されています。この薬が脱毛治療の大きな前進につながりました。
ホルモンをDHTに変える酵素の中には「Sa還元酵素」というものがあり、1型と2型の2種類あります。このうち、2型を強く抑制するのが、フィナステリドです。薄毛になり始めると平均5年ほどで30%毛髪が減り、その後減少の進行が止まることはありません。
しかしフィナステリドを内服することで髪の毛が増えたり、あるいは進行がストップしたりします。その効果は目覚ましく、両者を合わせると、内服した97%の人に効いていることがわかりました。
さらに、新たに「デュタステリド」という内服薬も開発され、注目を集めています。というのも、Sa還元酵素の2型に効くフィナステリドに対して、このデュタステリドは1型、2型両方に効くからです。
2015年に厚生労働省よりAGA治療薬として認可され、「ザガーロ」という商品名で16 年から販売されています。
ただし、これらの薬も万能というわけではなく、肝機能障害や精カ減退、精子量の減少などの副作用のリスクも、高くはありませんが奪慮の必嬰があります。また、最近ネットで多く見られる並行輸入品や海外生産の医薬品など、厚生労働省に認可されていない薬剤は、安全性の観点からお勧めしにくい薬剤と言えます。
塗り薬には、以前から良い薬が発売されています。「ミノキシジル」というローションで、「リアップ」という商品名で流通しています。
この薬は元々血管拡張剤として開発され、高血圧の人が服用していました。
副作用で体毛が濃くなってきたことから、育毛剤への転用が進みました。私もウィスコンシン大学霊長類研究所にいたとき、猿の頭に塗って実験しました。
実はフィナステリドも、元々は前立腺肥大を抑えるための薬として開発されたんですよ。育毛剤はこのように、他の薬からの転用が結構あるんです。まつ毛の育毛剤として「グラッシュビスタ」という治療薬が販売されているのですが、これは緑内障や高眼圧治療薬の「ビマトプロスト」の転用薬です。
2014年に厚生労働省に認可されました。
この薬を使用している人のまつ毛が、フサフサしてきたという副作用に着目して、開発されたのです。
ただし、良い薬が開発されたといっても、薬剤の効き方は人によって個人差があります。また、重症の患者が10 代の頃の状態に戻れる可能性は低いですし、ヘアサイクルには一定の時間が必要なので、薬を使ってもすぐに毛が生えてくるわけではありません。
治療効果に期待する頭髪の外観イメージは人それぞれなので、薬剤の効果の満足度にはバラッキがあるのも事実です。
薬剤治療で満足できない人に示しているのが、自毛植毛です。
現在世界で広く行われている植毛方法で、自分の毛を移植するので拒絶反応が起こる心配がありません。言わば自分から自分へ、臓器移植を行うようなものですからね。
昔からあった自毛植毛
この自毛植毛は、実は日本で先行していた技術なのです。昭和初期、火傷などの傷害で髪の毛を失った患者に対し、残っている部分から毛を植毛する方法を考案しました。その詳細な方法が論文で発表されています。さらに1940年代に入ると、この技術を改良した「毛包単位移植」の手法が開発され発表されました。
この技術は現在でも行われています。しかし論文が日本語表記だったこと、第二次世界大戦で日本が敗戦したことなどから、長い間忘れ去られていました。
そうですね。自毛植毛は非常に細かな作業ですから、手先が器用な日本人に適した手術と言えます。
AGAは主に頭頂部や前頭部の生え際に起こり、症状が進行した人でも大後頭隆起(後頭部中央の頭蓋骨の突起部分)より下の領域は、毛が残っていることが多い。医学的にも、この領域は男性ホルモンの影響を受けにくい場所であることがわかっています。
自毛植毛は、このしっかりと毛が生えている後頭部から、頭頂部や前頭部に毛包ごと移植する方法です。
毛包の採取には、大きく分けて2つの方法があります。
1つは、後頭部の頭皮を細く帯状に切り取って、頭頂部など薄毛の部分に植毛する「毛包単位移植法(FUT法)」と呼ばれる手法です。
まず、帯状に採取した頭皮を、毛包が一列に並ぶように薄くスライスします。
この状態から毛包単位に、1本毛、2本毛と株分けをして、患者の頭皮に植え込んでいくのです。切り取った部分は縫合するので、線状の傷痕が残ります。
もう一つは「毛包単位採取法(FUE法)」で、円筒形のメスで毛包をくり抜く方法です。1カ所から密集して取らずに、飛び飛びに採取するため傷痕がバラけて目立たないという利点があります。
いずれにしても緻密な作業が必要で、熟練した医師の元で行うことが必須なのは言うまでもありません。
植え込んだ毛包は、1週間から10 日ほどで、かなりの強度まで生着します。
毛包がうまく生着すれば、毛が抜けても数力月後には次の成長期に入り、新しい毛を再生産する健康なヘアサイクルに入ります。
ただし、移植をしない部分は薄毛が進行しますから、減るのを防ぐために薬剤治療も併用したほうがいいでしょう。
最近では、電動式の円筒形メスや、コンピュータを搭載した植毛ロボットによる手術も導入されています。
治療は安全性が高く、簡便にできて、しかも安価なのが一番です。
先ほどお話しした植毛は確実な手法ですが、手術なのでやはりリスクはつきものです。
内服薬も簡便ですが、病院での処方が必要になります。
ですから、まずは薬局で購入できる塗り薬を試し、それに満足できなければ内服薬、自毛植毛と進まれたらいいと思います。
ただし、薬剤には即効性があるわけではないので、少なくとも1年は継続し、その後に手術を検討されてはいかがでしょうか。病院選びのポイントは、育毛の専門医がいるかどうか。専門医のいるクリニックが望ましいですね。
また最近では、ローレベルのレーザーやLEDによる治療が始まっています。赤色のレーザーやLEDに育毛作用があることがわかり、クリニックはもちろん家庭用の機器も発売されています。
安全性も高く、ほかの育毛治療の邪魔にならないので併用して使用してみてはいかがでしょう。
ちなみに、日本皮膚科学会がAGA治療についてのガイドラインを策定しています。
効き目だけでなく、使いやすさ、安全性、副作用なども含めて総合的に評価しているので参考にしてください。
京都大学の山中伸弥教授がiPS 細胞を開発してノーベル賞を受賞しましたよね。そのために、再生医療への注目が急速に高まっていますが、育毛の世界でも同様です。
現在行われている自毛植毛は、毛周期が活発に行われている部位の毛包を衰退している部位に移植する方法ですが、1つの毛包は1カ所にしか移植できませんから、増毛効果にはおのずと限界があります。
そこで、新たな植毛法として現在開発が進んでいるのが、自分の毛包細胞を培養して増殖させ、それを患部に移植する毛包再生医療です。
細胞を大量培養することができれば飛躍的に治験効果は高まります。
すでに動物実験ではうまくいっているようですが、人間への応用はまだ研究段階です。
しかし、それほど遠くない将来には実現できるのでは、と考えられています。
さて、皆さん、ここまでの説明で、育毛は「遺伝だから」「年だから」と、あきらめる時代ではなくなったということをご理解いただけたのではないでしょうか。
育毛の治療には、いろいろなアプローチがありますから、自分に合った治療法をいくつか組み合わせて行えばより効果が上がります。ライフスタイルなども考慮して、継続できるものを正しく使い続ければ、薄毛に関するコンプレックスを克服できる可能性は高いと思います。